薔薇の名前


ぼくが子どもの頃に読んだ本は、すごく普通のものばかりだった。
ズッコケ3人組とか少年探偵団とかその辺りの本を、近所の図書館で毎週借りて読んでいた。 シリーズものがズラーッとならんでる棚の前を歩きながら、おもしろそうなタイトルのものをひっぱりだして、閲覧スペースに置かれている子ども用の椅子に座って何ページか読んで、おもしろかったら借りて、家で読んだ。
しばらく経っていつのまにか、本は借りずに買って読むようになった。
そのせいで図書館からは足が遠のいてしまって。
でも、何年か後にふと図書館にいって、あの子ども用の椅子を見たとき、あれ、と思った。
こんなに小さかったっけ?


あるいは。


初めて読んだ子ども向けじゃない本は、重松清の『卒業』だった。
とても気に入って、それからしばらくは重松清ばかり読んでいた記憶がある。
何年か経って、あの本よかったな、と思いながら読み返す機会があって、やっぱり、あれ、と思った。
こんなに短い本だったっけ?


成長といえば、広く一般に奨励されているけれど、なぜかしらさみしさがつきまとう。
でも、そのさみしさも承知の上で、やっぱり成長したいと思う。
自室の椅子に座って、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』を読みながら考える。
これから何年か経って、今座っている椅子が小さく感じられることはもうないだろうけど、今読んでいる本が短く感じられることはあったらいい。


作・舞台・小道具 中石海


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劇団綺畸2016年度新人公演

『無題、あるいは歪曲するガラスケースの寓意。』

作 中石海     演出 野口瑞貴

3/18(土) 19:00

19(日) 14:00/19:00

駒場小空間

全席自由席

予約不要・カンパ制

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